悪魔と天使とお化け屋敷 前編
遊園地と言えばまずは絶叫コースター。次に軽めのメリーゴーランドとか乗って、また絶叫。そして最後に観覧車と言うのがいつものあたしのプラン。
そのプランの中にコーヒーカップはあってもお化け屋敷は入った事がなかったのに。
「え・・・お化け屋敷!?」
「うん!遊園地と言えば絶叫マシーンとお化け屋敷よね」
絶叫マシーンには大いに納得するけど後半は無理。あたしはこう見えてもお化けとかそう言った類のものが大嫌い。わざわざその恐怖を味わおうなんて人の気が知れない。
慌てて止めに入ろうとしたのに、先に遊園地初心者の男二人が揃って興味を示してしまった。
「お化け屋敷、聞いた事があります。面白そうですね」
「・・・入る」
御影君の一言で全てが決まった。全然しゃべらないくせにたまに話すと凄い発言力だ。
青褪めるあたしに3人は気付く様子もなく楽しそうにパンフレットを見ながら歩き出してしまった。
「ね、ねぇ!」
気付いたら声を上げていた。振り返る3人にぎこちない笑顔であたしは必死に言い訳を考えた。
「えっと・・ちょっと気分悪くなったから、あたしここで休んでるよ。3人でお化け屋敷行って来なよ」
現に今あたしは顔色悪いはずだ。絶叫系にも何回も乗っているし気分が悪くなっても不思議じゃないはず・・・
だったのに。2人はそれで大丈夫でも悪魔相手にあたしのちっぽけな言い訳なんて通じるはずもない。
「あんなに絶叫系は大丈夫だと言っていたのに・・・さすがに酔ってしまいましたか」
遠まわしに嫌味だわ。絶対分かって言ってる、こいつ。ここで負けたらお化け屋敷に入らないといけなくなる・・負けられないわ。
「そうなのよ・・案外体弱かったみたいで・・・義姉の体調不良にも気付いてくれない義弟君は元気そうで羨ましいわ」
「すみません、鈍いもので。僕には義姉さんはとても元気良さそうに見えたものですから。朝もあんなに朝ごはんをがっついていたのでてっきり・・・」
「・・・食べすぎたのね、きっと。もう気持ち悪くてとてもじゃないけどお化け屋敷なんて行けないわ」
「大丈夫ですよ、中は涼しいらしいですし気分転換に歩くのもいいですよ」
うふふふふ、あはははは、と笑顔での応酬に美子は呆気に取られ、御影君はあたし達を交互に見ると一言、
「二人とも、元気そぉ・・・早く行こ」
えっ、とあたしがそちらを向いた瞬間に二の腕をガッチリと掴まれる。
「そうですね、これだけ大声で話せればもう体調も治ったでしょう。さ、行きますよ」
そのまま有無を言わさず引きずられて行くあたし。こうなった原因の御影君を睨むが気付きもしない・・・本当に天然って怖い。
いかにも出ます、と言うようにお化け屋敷の看板の字は血色で所々垂れている。ベタ過ぎるけどやっぱり怖い。
しかも乗り物ならまだしも歩いて行かなければならないもので、あたしの心は既に折れていた。・・・目を瞑って行くしかない。
しかし帝君にそんな醜態晒した日には何を言われるか分からないので、ここは一つ、
「2人ペアで入らない?」
「は?どうしてです」
「中狭そうだし、一応ダブルデートじゃない?デートっぽく2人1組で・・・ねぇ!?」
美子は赤くなりながら俯いた。肯定って事だろう。問題は帝君である、あからさまに疑わしげな目でこちらを窺ってくる。
「・・・もしかして、怖いんですか?」
「んなわけないじゃん!!!」
突然の核心に声が裏返ってしまった。これじゃぁ認めているのと同じだ。
「茉莉ちゃん、こう言うの駄目だっけ?」
「だ、駄目なわけないじゃん!?もうむしろ大好きだし!」
誰かあたしを止めてくれ。言えば言うほど墓穴を掘ってる気がする。
「へー・・・」
意味ありげに納得する声と痛い視線を感じて恐る恐る顔を上げると、天使の顔をした悪魔の満面の笑みがそこにあった。
「じゃぁ一人で入ってみて下さい」
この性悪悪魔が・・・!家に帰ったら覚えてなさい!(と言っても仕返しなんて出来ないだろうけど)
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